旭川地方裁判所 昭和31年(ワ)374号 判決 1960年2月19日
主文
一、原告と被告和島勇三郎との間で、同被告が被告会社の株主でないことを確認する。
二、原告のその余の請求中(一)昭和三十一年九月十六日被告会社臨時株主総会においてなされた別紙第一役員名簿記載の旧役員解任の決議及び別紙第二役員名簿記載の新役員選任の決議を無効確認を求める部分(二)右同日被告会社の新役員により開催された役員会においてなされた代表取締役選任決議の無効確認を求める部分(三)被告会社との間で、被告和島勇三郎が被告会社の株主でないことの確認を求める部分はいずれもこれを棄却し、(四)予備的に右株主総会の各決議の取消を求める部分(五)同じく役員会の決議の取消を求める部分は、いずれもこれを却下する。
三、訴訟費用は三分し、その一を被告和島勇三郎の負担、その余を原告の負担とする。
事実
(双方の申立)
原告は、「被告会社との間で一、昭和三十一年九月十六日被告会社臨時株主総会においてなされた別紙第一役員名簿記載の旧役員解任の決議及び別紙第二役員名簿記載の新役員選任の決議を無効なることを確認する。仮に無効でないときは右各決議を取消す。二、右同日被告会社の右新役員により開催された役員会においてなされた代表取締役選任決議の無効なることを確認する。仮に無効でないときは右決議を取消す。被告両名との間で、三、被告和島勇三郎は、被告会社の株主でないことを確認する。四、訴訟費用は被告等の連帯負担とする。」旨の判決を求め、
被告等は、請求棄却の判決を求めた。
(原告の主張)
一、被告会社は、製麺業を目的とする資本金二百万円発行済株数二万株一株の額面金百円の株式会社であり、原告は八千六百五十株を有するその株主で且つ代表取締役である。
二、被告和島勇三郎は、訴外和島いとと共同で旭川地方裁判所に対し株主総会招集の許可申請をなし、同庁昭和三十一(ヒ)年第六号事件として同年八月三十日その許可決定を得、同年九月十六日旭川市十条通十五丁目右十号の同被告宅で株主総会を招集した。しかして右株主総会には同被告訴外和島いと同矢代好雄同高畑春夫の四名が出席し、別紙第一役員名簿記載の旧役員解任の決議並びに別紙第二役員名簿記載の新役員選任の決議をなすと共に取締役として選任された右四名は、互選の上被告和島勇三郎を被告会社の代表取締役に選任する旨の決議をなし、同年九月十八日それぞれその旨の登記を経た。
三、しかしながら、右株主総会に出席した者の中被告和島勇三郎、同高畑春夫は被告会社の株主ではないから、右決議に加わつたのは被告会社の発行済株式数二万株のうち千八百株の株主に過ぎないことになり、右旧役員解任決議は商法第二百五十七条第二項所定の定足数を、また新役員選任決議は定款第三十二条第二項(訴状に第三十三条第二項とあるは誤記と認める)所定の定足数をそれぞれ欠くものであり、且つ株主でない者が加わつて為されたものであるから無効であり、仮に無効でないとしても、取消さるべきものである。
したがつて、被告和島勇三郎は取締役でなかつたことになるから、代表取締役となる前提である取締役たる地位に同被告がない以上、同被告を代表取締役に選任する旨の決議も当然無効であり、仮に無効でないとしても取消さるべきものである。
四、よつて、原告は、被告会社を相手に本件株主総会の各決議及び本件取締役会の決議の無効なることを確認する旨、予備的に右各決議の取消しを求めると共に、被告両名を相手として被告和島勇三郎が被告会社の株主でないことの確認を求めるため本訴に及んだ。
五、被告等主張事実中
被告会社が被告等主張のように昭和十五年十月二十五日設立された和島興業有限会社を前身とし昭和二十四年二月五日組織変更されて株式会社となつたが被告和島勇三郎個人の同族会社であり同被告が被告会社の取締役社長として、会社を経営して来たことは認めるが、同被告は社務に精励を欠き経営不振となつたので、原告等に同会社の経営を委ねることとし、そのため昭和二十八年五月頃、同被告所有の被告会社の株式全部を原告に譲渡したものである。その際被告等主張のように被告会社が昭和二十六年十二月一日株券の代りに発行した株主証明書と称する書面の譲渡を受けなかつたのでその後その交付を求めたが拒絶された。
しかして、右譲受当時株券の発行がなされていなかつたことは被告等主張のとおりであるが、右株式の譲受けは有効に行われたものである。すなわち、商法第二百四条第二項は、会社設立または増資後株券発行に要する合理的期間内における株式譲渡の効力を否定するもので、右の合理的期間経過後株券が発行されない場合の株式譲渡の効力までも否定する趣旨のものではない。本件の場合、被告会社は昭和二十四年二月五日組織変更により株式会社となつた旨の登記を完了し、被告和島勇三郎が直ちにその代表取締役に就任したのであつて、同年三月中には株券を発行することができたにも拘わらずこれを怠り、右譲渡当時まで株券を発行しないまま放置したのであるから、昭和二十四年三月末までは株式譲渡をしても効力が否定されるが、それ以後の譲渡は有効というべきである。
なお、被告会社は、昭和二十八年六月二十五日株券を発行した。和島勇三郎がその所有株式を原告に譲渡し乍ら、自らその無効を主張することは、権利濫用の法理または禁反言の原則に照らし許されない。
(被告等の主張)
一、原告主張事実中被告会社が製麺業を目的とする資本金二百万円発行済株式二万株一株の額面金百円の株式会社であり、原告はその株主であること、被告和島勇三郎が訴外和島いとと共同で原告主張のような株主総会招集の許可決定を得、原告主張の日時場所で株主総会を招集開催したこと、右株主総会において原告主張のような各決議がなされると共に新取締役会で原告主張のような決議がなされそれぞれその旨の登記を経たことは認めるが、原告所有の株式数は八千六百五十株でなく百株に過ぎず、原告が被告会社の代表取締役であること、右株主総会及び取締役会の各決議に原告主張のような瑕疵があることはいずれも否認する。
二、被告会社は昭和十五年十月二十五日に設立された和島興業有限会社を前身とし昭和二十四年二月五日組織変更して株式会社となつたが、その実は被告和島勇三郎個人の同族会社であり、同被告は、被告会社の取締役社長として会社の経営を担当していたが、経済界の変動により会社経営に困難を来し、昭和二十八年五月頃原告等に後事を託し会社経営の第一線から退くことになつた際、会社経営のため同被告個人所有の財産を担保に提供し、原告等が右財産を利用し易いよう譲渡形式をとることにしたことはあるが右の財産中には株式を含めなかつたもので、株式を譲渡した事実はない。
三、仮に、原告主張のとおり被告和島勇三郎所有の株式の譲渡がなされたとしても法律上株式譲渡の効果は発生しない。すなわち株式譲渡については商法第二百五条所定の厳格な形式を要求され被告会社の定款第八条も右規定に従つた株式譲渡による名義書換をのみ認めている。しかるに被告和島勇三郎から原告への譲渡は右の形式を履まないのみならず株券に代わるものとして昭和二十六年十二月一日株主に発行された株主証明書の交付すらなされていないから、株式譲渡の効果が発生するに由ないものである。なお、被告会社が、昭和二十八年六月二十五日に株券を現実に発行したとの点は争う。
(証拠関係)(省略)
(別紙)
第一旧役員名簿
取締役の氏名及び住所
旭川市東七条一丁目 大竹米治
同市十条通九丁目右七号 山崎周治
同市七条通七丁目右四号 照井善吉
同市東七条一丁目 渡辺カネ
代表取締役 大竹米治
監査役の氏名及び住所
旭川市三条通九丁目右三号 田村正典
同市東七条一丁目 松井豊
第二新役員名簿
取締役の氏名及び住所
旭川市十条通十五丁目右十号 和島勇三郎
同 所 和島いと
同市曙三条六丁目 矢代好雄
同市東七条一丁目 高畑春夫
代表取締役 和島勇三郎
監査役の氏名及び住所
旭川市三条通八丁目 管功